ソロモンの偽証

  八月の末から三か月、月二冊ずつ刊行され、文庫で計六冊、一冊がだいたい550ページであるから大長編だったが、長さなど気にならず面白くて毎月続きが待ち遠しかった。宮部みゆきは小説がうまいのは認めざるを得ない。

 
 クリスマスの日の朝に中学校で死体が発見され、死体はその中学校の生徒であった。警察は自殺と処理し、周囲も不登校であったその生徒の状況を鑑みて自殺だとする判断に疑問を持っていなかった。しかしその後に彼は自殺ではなく殺されたのであり、そして殺したのはある同級生である旨の告発状が各所に送られたことをきっかけに、その中学校ではさまざまな騒動が勃発する。生徒たちは真相をつかむために判事、検事、弁護人、陪審員すべて生徒が行う学校内法廷を開くことになる。
 
 この本は長いが、この長さは学校内法廷を開くことにリアリティーを出すために必要だった。特定同級生を公開法廷に引っ張り出し、学校関係者が傍聴するなか裁くのは悪趣味であると普通感じるが、噂と事件が絡み、真実がわからない状況であることを丹念に描写されると、公開法廷を開くこともやむなしな気がしてくる。また、人物に厚みを与えるためにも多くのページが割かれている。一人の生徒が親を殺してしまいそうになるまでの心理描写には納得すらした。そして話の展開の折に謎があってそれの答えが示されてが繰り返され、全く冗長な説明に終始しているということはないので続きが気になるつくりとなっている。このあたりの語りのうまさは見事だ。
 
 この小説の主要人物のほとんどはコミュニケーション不全に悩む少年少女である。コミュニケーション不全が極まって法廷でラジカルに決着をつけることとなったのだ。評決のとき陪審員一人が、こうなる前に話を聞いてやるべきだったと言うシーンがあるが、この発言は不満だ。本末転倒に感じる。しかし宮部みゆきはコミュニケーション不全の青少年を愛していて、かつ信じているようだ。救いようのなさそうな子をなんとか救って見せたところにそれを感じた。